バーバラの午睡

主婦の気晴らしお楽しみ。例えばメイドカフェとか。チョコミントとか。

六本木 森美術館「STARS展」はお得感しかない綺羅星の集まり。

【2020年9月】
六本木 森美術館で、「STARS展」という、文字通り今のアート界のスター達の作品が一度に見られるという、非常にお得感のある展覧会が開催されている事は知っていた。
入場料は、展覧会としてはややお高めの2000円。

何が何でも行く、という程の気持ちではなかったので迷ったんだけど。
それでも、私は今まで展覧会で、それぞれに差はあれど、行って「あーやっぱ来なきゃ良かった」と思った事はないので、やっぱ行こう!って事で、平日お休みの日に行ってきた。

結果、やっぱ良かった。行って良かった。


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 館外にあったポスター。列挙された名前の大物感がすごい。

 

ところで、現地は何しろ人が!少ない!
事前予約制だったけど、空きがあれば当日その場で入場可能。
私は当日予約ですんなり入れました。(尚、今は予約なしで入場可能になったらしいです)

フロアは52階で、専用エレベータで上がるんですが、そのエレベーターに乗ってたの、私一人だったよ??
平日とは言え・・・こんなの初めてだよ・・・。

それでもって。会場はエレベータを降りて、更にエスカレーターで上がったフロア。
一番始めのコーナー、村上隆氏の展示ブースに足を踏み入れたその瞬間、「あっもうこれ2000円安いわ、というか実質無料」と思ったよね・・・。

まず度肝を抜かれるのが、フロアで堂々たるオーラを放つ、威容たっぷりの阿形吽形像
まずは何しろとにかく大きい!

 

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 見下ろされてるのよ。


筋肉の付き方などは鎌倉仏のような、「伝統的な、誇張した写実」。
なんだけど、顔はユニークでキャラクターっぽい。そこに齟齬がないというか、違和感がないのがすごい。
ポーズや表情がコミカルだったり、歯や爪の1本ずつがカラフルだったり、踏まれている悪鬼の顔が愛嬌しかなかったり・・・という、ポップさ可愛さと、仏像しての確立された存在感、そのバランスが素晴らしい。
圧巻の存在感で、これは他では絶対見れない! 


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 踏まれている邪鬼ちゃんが可愛すぎる。


そして歌舞伎の、市川團十郎白猿の襲名記念に書かれたという絵画。
これまた「正しく歌舞伎なんだけど全く村上ワールド」という作品。
ポップなのに歌舞伎、これぞ傾いているって感じ。
とても可愛いのに、歌舞伎の歌舞伎らしさみたいな所を損ねてない。

更に、あの有名なロンサムカウボーイとか、ミスココとか、母乳ちゃん(あれは母乳で縄跳びをしてるそうで、HIROPONという作品だそう)とか、画像として見たことはあるけど実物を見るのは初めて!というのが実際に見られたという満足感よ。

 

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 「かねてから存じ上げておりましたが、あなたがあの!」という気持ち。

 

そしてやっぱり一番目を惹いたのが、スペースの壁2面に描かれた絵ですよ。何しろ巨大。
片方の壁は村上隆の代表的モチーフ、お花ちゃん(という呼び名が正確な物かはしらないけども)で埋め尽くされている。
もう片方の、会場に入って最初に目に飛び込む壁は、あのニコニコの顔の付いた富士山+桜バージョンのお花ちゃん+細かいモチーフが沢山沢山、描かれている。

 

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 写真ではサイズ感が全く伝わらないんですが、これ壁なんですよね。

お花ってきれいだよね!笑顔って楽しいよね!カラフルって素敵だよね!という、ものすごいど直球な感情を、ものすごく分かりやすく具現化したのが、氏のお花モチーフだと私は思う。
そのニコニコハッピー!なお花ちゃんが、これでもこれでもかこれでもかーー!と描かれてる。
リピートの力ってすごい。ぐいぐい来る。

富士山にもニコニコのお顔が描かれていて、毒気を抜かれるというか。何しろその大きさからしてそりゃあもう迫力でまず「参りました」という気持ちになる。

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 ニコニコ富士山ちゃん。これまた巨大。笑顔の洪水で脳がバグる。


そしてそうやって圧倒的である分、そこから生み出される力も強い。
多幸感をそのまま絵にしたようで、それが増幅されて、こちらにもそのエネルギーが伝播するような気持ちになる・・・。と思ったことであったよ。

そして、モニタで流されていた映像作品がこれまた可愛くて。
何故か猫の着ぐるみヘッドを付けている、初々しい感じのカップルが、デートで原発を見に行くというストーリービデオ。
心情を語る男子のナレーションと、しんみり可愛い歌が付けられている。
映像の出来映えがとても心に染みる、素朴さを洗練された映像として描くバランスが素晴らしい。
原発を、冷やかしでもノリでもなく「そっか原発の事全然知らないな、じゃあ見に行ってみよっか」という、デートコースの一つとして選んで行ってくるという、その過程が最初から終わりまでが淡々と描かれている。

日常の描写から連なる、ごくごく普通のデートの光景。
そのような、私達の送る日々の延長線上に「その場所」があるというのが、新鮮に感じる。
当たり前といえば当たり前なんだけど、誰もその事を言ってこなかった。
さぞかし恐ろしい場所として語られていた「原発」を見てきた彼氏と彼女は、「風が冷たかった」「花は咲いて鳥も鳴く、素敵な場所だった」と語る。
その、「行ってみたらこうだった」というのを、気負いも衒いもなく、ものすごく普通に語る感じに、新しい風が吹くような、なんだか救われるような気がしてしまう。
映像の中で語られる、「行ってもいない観念」ではない、「実際に行った感想」の素直さが心に染みたよ。

村上氏といえばスーパーフラットですが、この彼氏彼女の視線もフラットだよなあ、なるほどなあと感じた次第。
台詞と歌の音声に、英語版と日本語版があって、思わず両方見てしまった。

という訳で、初っぱなの村上ゾーンだけでも十二分に楽しかった。

そしてその後にあった草間彌生氏ゾーン。
絵画作品は、小さく小さく一つ一つの部分を描いて描いて描き込んで・・・と言う緻密さ。
それが果たして大きな作品になりました、というのがまるで編み物のようだと感じた。
それにしてもこれだけの大きさの作品を、あのご年齢で仕上げておられるという、そのパワーが本当にすごいと思う。

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 草間氏と言えば、の「生えてる」インスタレーションもありました。


中が鏡張りになっていて電飾が輝くインスタレーションもあり、色合いと輝きがすばらしくて「おおお!」と子供のように見入ってしまう。会場のお姉さんに「足元の白線を越えないで下さいね」と優しく注意されました。

そしてその後。宮島達男氏の作品ゾーン。
薄暗い空間に入ると、木道の様な柵があり、水辺のような造りの空間に、青と緑のランプが明滅している。
高原の夜を思わせる、虫の声のような環境音も薄く流れている。
尾瀬のような、水辺で群れる蛍を見てる様な趣向?と思ってよく見たら、一つ一つのライトはデジタルの数字で、それぞれが別々のタイミングで1〜9の数字をカウントしている。

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 涼しげで風情のある空間が、いきなり登場する。

 

へええ面白いなぁ・・・と思って、しばらく見てから次の部屋に行ったら。
カウントしていた、一つずつのデジタル数字のライト。
それら一つ一つには全て、カウントの速度を決定した「参加者」がいる。
そして、参加者の名前も、設置した位置も全て記録されて、展示のどこに誰の設定したライトがあるかも、きっちりマッピングしてあったのよ。
「ちょっと何よそれ・・・そんなんだと思って見てないじゃん・・・」と思って前室に戻って再度見てみる。

これは3.11の鎮魂的な意味合いで作られたらしい。
広い空間に配置された数百の明滅する明かりの一つ一つに、誰かの意志が込められている。
その事が、あの時に被害に遭った人達が「被災者」としてひとくくりにされがちだけど、そういうまとまった概念としての存在じゃなく、一人一人に名前があって、一人一人がそれぞれの人生を生きる存在だよねという事に思いを至らせてくれた気がして、呆然とするしかなかったです。
すごい事考える人がいたもんだね本当に。

そしてその次。ものすごーーーく可愛かったのが、奈良美智氏の展示。
最初に、氏のアトリエから持って来たような本とか人形とかが棚に並べられている。
「ならさんへ」とひらがなで書かれた子供からの手紙のような物もあり、微笑ましく見る。

そして次の部屋。
入るといきなり、「顔の乗った小屋」がある。
そのサイズ感に圧倒される。人が入れる大きさ!本当に、文字通り、小屋!
可愛い。めちゃくちゃ可愛い。ひょおおおおおお!

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 顔。ひたすらに、ただひたすらに可愛い。

色とか、屋根のカーブ具合とか、そして勿論乗っかったでっっっかい顔とか、まるで絵本の中にある存在が、そのまんま現実になったという、非現実感。
小屋には窓と、可愛らしいドアまが付いていて、ドアは開けられている。
中を覗くと、アトリエ風に良い感じに散らかった状態に色々な物が置かれてる!すごい!ときめく!!!
何度もぐるぐる回ってじっと見てしまう。可愛い。なんて可愛いのか。
夢に見た光景が本当に叶いました!というような、不思議な気持ち。

そして、Lonely Moonという作品。
壁に掛かっている、超超超巨大な皿という形状。
そこに、奈良美智氏の描くあの「女の子」の顔が描かれている。
何しろその大きさよ。そして顔のほんわりとした可愛さよ。
これまた、実物の月とは違うけども、「物語の中にある月が1/1スケールで出現した」という気がしてしまう。

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 これがエモいということか。可愛い・・・

そして勿論絵画作品も様々ある。
そういった色々を見た上で、前室のアトリエの小物や本を見ると「あああなるほどこういう所からインスピレーションを受けてのあれなのか・・・」と感慨深かった。

他の作家の方の展示もあったけど正直よく分かるような分からないような(ごめん)、ってことで私の心に響いてきたのは以上です。

いやすごい展覧会でした。本当に。
別に大きいから良いとか悪いとか無いと思うけど、それでも、今をときめくアートの作家の、物理的にこれだけの大きさのある作品を一度に見られる機会って、絶対に無いと思う。
「お得感」という事で語って良いか分からないけど、これは間違いなくお得でしかない、ものすごく充足感のある展覧会でございました。
私は美術に素養がある訳ではないけど、とにかくとても楽しめました。

ところで、私がバンバン写真上げちゃってる通り、この展覧会は写真撮影OKな作品がものすごく多い!
一部作品は撮影NGですが、それ以外はかなり撮影可。そんな所も今っぽくて良かった!

この展覧会は、きっとオリンピックに向けた目玉であったことでしょう。素人目にも、それだけの素晴らしい見応え。
危うく行かないとこだった、あぶねーあぶねー。